20世紀のデザイン、モダニズムの中心をなす思想は機能主義である。光、風、音、熱等、人間として快適に生存するための環境を提供するための機能は常に前提条件として満たされるべきである。モダニズムは古い制度や習慣から自由になり合理的で新しい生活を作り出すことを目標としたはずである。しかし、特定の空間に特定の活動、目的を限定し、その目的を遂行するにあたって合理的であるべきであるという考えが人間性を束縛していることもある。特定の活動に機能的につくられた空間は使われ方を人間に対して限定する。特定の活動に限定された空間にはそれに付随する古い習慣からのイメージが付きまとう。

機能から考えられたキッチンはそれが「家事の場」であることを何よりも規定する。それには家事が家庭において置かれていたかつての封建的な家族制度を暗示する。日本の伝統的な「ハレ」(華やかな場、表)、「ケ」(よそゆきでない場、裏)という区分でいうと「ケ」の場であった。そこがコミュニケーションの場であったり、生活を楽しむための場であることを規制する。私はなによりもそれを「ハレ」の場として考えたい。

機能主義の呪縛から自由にならなければならない。古い習慣や制度から自由にならなければならない。機能を無視して良いといっているのではない。機能的であることは必要条件であり、充分条件ではない。はじめに機能ありきではないといっているである。古い文化を無視して良いといっているのでもない。古い文化からは学ばなければならないことがたくさんある。建築を使うのは人間であり、どう使うかは人間の意志によるべきである。建築にしばられるべきではない。それぞれの部屋や建築に要求されるものが機能よりも人間にとって重要なものがあることから考え始めるべきである。使いやすさは確保しながら、キッチンに新しい意義や目的を与え、真に豊かな生活を楽しむための建築をつくりたいと思う。人間のための建築とはそれぞれの空間が人間に奉仕するようにつくられるべきである。